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第四話 社長の葛藤(side:宗司)

Author: 柳アトム
last update Last Updated: 2025-07-04 04:34:34

 俺の父・杵島 巧三が興した我が杵島グループは、今では国内を代表する大手企業だ。

 その父の後を継ぎ、社長に就任した俺の責務はとても重い。

 我が社は、世界的にも高いシェアを誇る有名企業だが、国内にはシェアを二分するライバル企業の大和田グループが存在する。

 これまではお互いにシェアを競い、激しく争っていたが今や時代はグローバル社会。

 目を向けるべきは世界であって、国内で争っている場合じゃない。

 事実、我々がそうした争いをしている間に海外企業の台頭を許してしまった。

 そういった事態に陥った時、大和田グループの社長令嬢と俺の政略結婚の話が持ち上がった。

 お互いの絆を深め、協力して海外企業の脅威に対抗しようという目論見だ。

 今時、政略結婚など時代錯誤も甚だしいが、理屈で考えれば正しい判断だ。

 我が社と大和田グループの利益は国益にもつながる。両企業はそれ程までに影響力のある企業グループだ。

 ここで俺が子供じみた駄々をこね、結婚を拒否すべきではないだろう。

 * * *

 大和田家には二人の令嬢がいた。

 姉の充希と、妹の彩寧だ。

 政略結婚となれば長女である充希が選ばれるかと思ったが、意外にも妹の彩寧が選ばれた。

 大和田グループ社長・大和田 毅の正妻は大和田 真沙代だが、どうやら充希は真沙代の実の娘ではないという事情があるようだ。

 まあ、そういった事情など、どうでもいい。

 俺は彩寧との交際をスタートさせた。

 俺と彩寧は、初対面ではない。

 彩寧は同じ中高一貫校の二年後輩で、同じ剣道部に所属していた旧知だった。

 学生の頃から彩寧は俺に好意を示し、よく話しかけてきていた。

 その為、今回、政略結婚で俺との交際が決まると、喜びをあらわにしていた。

 俺はそこまで乗り気ではなかったが、最低限の付き合いには応じるつもりだった。

 しかし、その矢先───。

 大和田家に騒動があり、大和田 毅と大和田 真紗代が離婚した。

 理由は多くは語られなかったが、真紗代の浮気が原因ともっぱらの噂だった。

 真紗代は大和田家を去り、その際、彩寧も母に連れられて大和田家を去った。

 そして、俺と彩寧の交際もご破算となった。

 これで時代錯誤の政略結婚は白紙撤回となるかと思われたが、妹が駄目なら姉と結婚しろと、今度は充希との結婚話が持ち上がった。

 人をまるでゲームの駒のように扱うやり方には、心底辟易とさせられる。

 因みに充希も俺と同じ中高一貫校の同学年で、高校一年の時には、あまり会話はしなかったが同じクラスになったこともある。

 そんな充希と政略結婚をするわけだが、俺は充希に期間限定で離婚をする「偽装結婚」を提案した。

 それは充希のことを思っての提案だった───。

 * * *

 充希の父と、充希の産みの母である忽那 碧はお互いに愛し合っていたが、結ばれなかった。

 その為、充希は産みの母に育てられず、幼少期はあまり幸せとは言えなかったようだ。

 そんな充希は、相思相愛の相手と結婚し、幸せな家庭を築くことを夢見ている。

 そんな充希に家同士が決めた政略結婚は、夢を踏みにじる余りに酷な話だった。

 俺は、子供じみた駄々をこねるつもりはなかったが、相手が充希なら話は別だ。

 充希の為にも結婚を断った。

 ───だが。

 残念ながら今の俺に、父や周囲の言いつけを跳ね除ける力はまだない。

 結局、俺は言われるがままに充希と結婚をすることになってしまった。

 だが、それでもなんとか充希を救いたい。

 そこで俺は、充希に結婚はあくまで偽装で、白い結婚とすることを提案した。

 そして結婚期間は三年で、それを過ぎれば離婚することも告げた。

 今の俺に、父や周囲の言いつけを跳ね除ける力はまだない。

 だが、三年あれば俺は力をつけ、周囲の言いなりにならない権力を持つことができるだろう。

 そして充希を望まない結婚から開放する。

 その為の三年間。その為の期間限定の偽装結婚。その為の白い結婚。

 そのつもりだった───。

 しかし、結婚二年目のあの日───。

 俺は充希と一線を越えてしまった。

 自分から「この結婚は偽装結婚で、三年という期間限定で離婚する白い結婚だ」と充希に告げていたのに、その誓いを破るなんて……。

 充希はさぞや幻滅しただろう。

 ますます望まない結婚に嫌気が差しただろう。

 しかも事態はさらに悪い方向へ進みそうだ。

 その理由は、俺の中で、充希に対する思いが日増しに大きくなっている事だった。

 この状況は非常に良くない……。

 今から一年後、俺は本当に充希と離婚することができるだろうか?

 充希を望まない結婚から開放せず、このまま自分のもとに縛りつけてしまうのではないか?

 自分がそうしてしまいそうで、とても怖くなる。

 それ程までに充希のことが好きになりつつあった。

 それならばいっそのこと───。

 充希への思いが抑えられなくなる前に離婚をするべきではないか?

 俺がそう考えた矢先、会社の総務に一人の女性が入社してきた。

 驚いたことに、それは彩寧だった。

 彩寧は母方の旧姓・篠原を名乗っていたので最初は気付かなかったが、相変わらず俺の腕に抱きつき、じゃれてはしゃぐ姿は昔と変わらなかった。

 彩寧の姿を見た俺はある考えを思いつく。

「彩寧が戻った」

 その一言と共に、充希に離婚届を出そう。

 充希も政略結婚をする際、期間限定の白い結婚と言われたから了承したのに、それを告げた本人に誓いを破られ、さぞや愛想を尽かしているだろう。

 離婚届を見れば、今はそこまで考えていなかったとしても、選択肢の一つ───決断の一つとして、今すぐ離婚をすることを考えるきっかけになるかもしれない。

 俺はこの思いつきを実行に移し、充希に離婚届を突き付けた。

 そして充希が一人で考える時間を持ってもらおうと何も言わずに会社に出社した。

 今頃、充希はどう考えているだろうか。

 気になって仕事が手につかないが、それよりも、もう一つ困ったことが発生した。

 久しぶりに再会した彩寧が嬉しさの余り、興奮した子犬のように俺にまとわりつくのだ。

 とにかく落ち着かせようと昼休みにランチに誘ったが、彩寧の興奮はまだまだ冷めそうにない。

 お互い、もう学生じゃない。いい年をした大人なんだから、少しは落ち着いてくれと思わなくもないが、わずかな期間とはいえ交際関係にあったことと、同じ剣道部の後輩ということもあって無下にも扱えない。

 それに確かに久しぶりの再会だ。

 積もる話もあるだろう。少しの間だけ付き合うことにしよう。

 そう考えた俺は会社に戻ると、エレベーターに乗り込む。

 エレベーターのドアが閉まる時、充希の姿が見えたような気がしたが───。

 いかんな……。

 どうやら充希のことが気になって、他人の空似を錯覚するようになったようだ。

柳アトム

------ 【登場人物】 ------ ▼杵島 充希(きじま みつき)/旧姓:大和田 充希  宗司と三年という期間限定の偽装結婚をするが双子を妊娠。  これを機に、偽装結婚を解消し、本当の夫婦になることを宗司に提案しようとするが、妊娠が判明したその日に、宗司から離婚届を突きつけられる。 ▼杵島 宗司(きじま そうじ)  充希の夫。充希とは幼馴染で、同じ中高一貫校に通った同級生。  充希が妊娠したことを知らずに離婚届を突きつける。 ▼藤堂 幸恵(とうどう さちえ)  充希の担当産婦人科医で親友。  充希、宗司と同じ中高一貫校の同級生で剣道部の部長。 ▼篠原 彩寧(しのはら あやね)/大和田 彩寧  充希の異母姉妹の妹。  中高一貫校の先輩である宗司が好きで、執着している。 ▼大和田 毅(おおわだ つよし)  充希の父。  大和田グループの社長。 ▼篠原 真紗代(しのはら まさよ)/大和田 真紗代  彩寧の母。大和田 毅の元妻。  自らの浮気が原因で大和田家を去る。 ▼忽那 碧(くつな みどり)  充希の産みの母。充希の父親の大和田 毅とは相思相愛。

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YOKO
どうなるかわからないけど‥
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